人生の実力テスト  --00.02.09




ああ、なんというか、脳味噌が切れ痔になりそうなくらい忙しいのである。

比喩がきたない(えぇ、とっても)。

でもなんか脳味噌の各所がブチブチ切れて、そこに神経信号が出たり入ったりするたびに出血するような、そんなイメージなのだ。
わかる?
ひとつでも痛い切れ痔が脳味噌の各所にあって、それらが同時かつ時間差でズキズキ痛む感じ。

たまらんしょ?

いや、物理的な頭痛ではない。
なんというか、よく使われる表現では「脳味噌がウニになったような感じ」に近いであろうか。
それよりは「脳に砂が詰まっている感じ」の方が近いかな。
なんかね、脳の部分部分の疲労が、痛点的に感じられるイメージ。
……ああそうか最初からそう書けばきれいで知的なのにどうしてボクは切れ痔なんてぇ表現をするのだろうといまちょっと思ったがこのまま進む。



脳味噌が切れ痔になったのは二足の草鞋を履いている自分も悪い。
いい加減、会社が忙しいのに。
朝から夜までひーひー言いながら働いた上に、家に帰ってから連載原稿とかジバランの評価表とか更新作業とかもしないといけない。(あ、メールの返事も)
会社が機械的な作業だったらいいのだが、企画が仕事。「明日の朝までに3案ねー」とか言われてうんうん考えなければならない。会社で締め切り。家に帰ってからも締め切り。うーむ。

まぁ。

まぁでも、振り返ると、よくやっているのである。
なかなかがんばってるよ、オレも。
そこらへんの人生さぼっているヤツに比べれば、ずいぶんいい方じゃないか。
充分だよ、充分な処理能力だよ。
たまには自分をいたわってやろうよ・・・

などと、自分を許す気分になりつつ、浅い自己憐憫に溺れつつ、そして脳味噌の切れ痔とつきあいつつ・・・ある日、久しぶりに大阪は法善寺横丁の「川名」というバーに飲みに行ったのであった。





ボクには幸せなことに「こりゃまるでかなわん」と思っている人が少なくともひとりいる。

部分部分では「かなわないなぁ」と思う人はいるが、その存在すべてに「こりゃ負けた、全然かなわない、つうか勝負すらさせてもらえない」と思う人が少なくともひとりいるのである。

その人の名は黒田征太郎。
イラストレーターなのだろうな、職業的には。

彼のイラストも好きではあるが、そんなことより彼の人間的魅力に惚れきっていると言ってもいいかもしれない。うさんくさいおっさんではあるのだが、なんというか「生きている姿勢」が好きなのである。そして毎回かなわないと心底思ってしまうのだ。

会うたびに、どうしようもない彼我の差を感じてしまう。
まだまだ遠く、もしかしたら届かないかもしれない高みをわかってしまう。
自分の「生きている姿勢」みたいなものを見つめ直させられてしまう。

これでいいのか、さとうなおゆき。
その生き方で、彼の目をまっすぐ見て話すことが出来るのか、さとうなおゆき。

すべてを見透かすその透徹なる視線にさらされると手も足も出なくなってしまう。
彼自身はとっても気を使う人で、こんなボクでも友達扱いしてくれるのだが(20も歳が違うのに)、こっちは勝手に緊張し、勝手に負けてしまうのだ。


ボクの願いはささやかなものだ。
いつの日か彼の前で、臆せず自信を持って自分をさらけ出せるくらい、人間的成長をしたい。
会社の看板や実績抜きで、ただ裸ひとつの自分だけで、彼と対等に渡り合いたい。
彼にもらったパワーを倍にして彼に返してやりたい。

そんなことを切実に願うくらい、ボクは彼に憧憬しているのである。
平たく言うと、彼に認められたい、のでしょうね。




あぁ、法善寺横丁の「川名」の話であった。

別にそのバーに黒田さんがいたわけではない。
黒田さんはそこによく来るのだが、その夜はいなかった。というか、今彼はニューヨークに住んでいる。

ただそのバーのマスターも黒田さんの信奉者で、ふたりで黒田さんの話ばかりしていたのである。

あのおっさんにはどうして勝てないんやろね。
あのおっさんの前に出ると緊張するよね。
そやけどさとさん、あの長友さんですら黒田さんの前だとドモルで。
ふーん。なんやしらんが、ええはなしやねー。
それにしても格好ええよなー。
またなにげなく発する言葉がええよねー。

  ・
  ・
  ・

ただこうして黒田さんの話をえんえんしていただけである。


それだけで。
彼の話をしただけで、なんだか背筋がシャンと伸びてきたのだ。

まるで魔法の呪文。
「黒田征太郎」ととなえただけで、脳味噌の疲労もすっとんだのである。

ただ、彼の名前を聞くだけで、「この程度の処理能力で脳味噌が切れ痔とか言ってんじゃねぇ」と緊張する自分がいるのである。



黒田征太郎という名前を聞くたびに自分の実力が試される気がする。

自分がいま人間としてどのくらいチカラがあるか。伸びているか。さぼってないか。そしてなにより「生きているか」・・・。

人生の実力テストの結果が、壁に張り出されるような、そんな戦慄を感じる。

寒いのに、背中につぅと冷や汗が流れるのである。




この程度の実力では、裸ひとつで黒田さんと渡り合えない!




脳味噌の切れ痔には軟膏はいらない。

黒田征太郎の存在さえあれば、治る。

今日からまた、仕切り直しだ。

自分を「それなりにがんばっている」などと甘やかす余裕も、「生きること」をさぼっている暇もないのである。



・・・・そして、こういうふうに「かなわない」と思える人を持つボクは、しあわせだなぁとつくづく思うのである。




ps1
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ps2
「週刊金曜日」(買ってはいけない、を連載している雑誌ね)で、本についての連載を2ヶ月持つことになりました。短いコラムですが、興味ある方はどうぞ。そのうちこのサイトにも転載しますけど。

ps3
「うまひゃひゃさぬきうどん」1万部突破、ありがとうございました。



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