さよなら、ボクが愛した街  --00.06.06




というわけで、引越である。


突然やってくるお葬式と一緒で、こういうのは感慨を深くする間もなくあっという間にやってくる。そしてどんどん進む。
関西を名残惜しむ間もなく東京へ出発することになりそうだ。


前の引越の時の後悔もあって、今回はいわゆる「らくらくパック」にした。

神戸〜東京間の引越代金は会社が持ってくれるのだが(そりゃそうだ、一応赴任命令だからね)、らくらくパック代までは持ってくれない。だから「自腹」。引越前の梱包はしてくれて、引越後はゆっくり自分たちでやるパターンのらくらくパック。
自腹とはいえ、引越に伴う激疲れ、そして以前の後悔を考えると、やはりここはらくらくパックでしょう。


ボク「いわゆるらくらくパックにすると、どのくらいプラスすればいいんですか?」
業者「そうですねぇ、梱包させていただく人数に寄るんですが、
   お宅さまなら4人来るとして……6万円ほどでしょうか」
ボク「6万円……(思ったより安いな)……わかりました。お願いします」
業者「では、会社の方にはご請求しない、ということで」
ボク「はい。 あ、ちなみに、会社への請求額は大ざっぱにどのくらいになるんです?」
業者「そうですねぇ……神戸から東京で……5〜60万円くらいでしょうか?」


まぁ、エアコン取り外し・取り付けやら保険代やら車の陸送やらいろいろ入っての金額だからこのくらいはかかるんだろうなぁ。距離もあるし。でも、ちょっとした金額だね、5〜60万円。
で、この金額は「梱包をすべて自分でやることが前提」の金額なのだ。相対的にいってプラス6万円で梱包までしてくれるなら、やっぱりらくらくパックの方が楽なのだ。


まぁ読んでおられる方の中には「それでも6万円は高いわ!私なら自分でやる!」という方もおられるだろうが、ボクの価値観としては「お金で時間を買う」という意識が強いのである。引越前の準備に割かれる多大なる時間が惜しい。もったいない。そんな感じ。

世の中で一番大切なのは「時間」なのだ。いまのボクには。

6万円あればアレも買えるコレも買える、という物質主義はいまはあまりない(過去にはあった。将来は知らん)。いまはそれよりも時間が惜しい。ゆえに時間にお金を払う。
あー、レストランでもそうだな。料理にお金を払っている意識がわりと薄い。サービスを含めた「気持ちのいい時間」にお金を払っている。料理はその中の一要素。

・・・と、偉そうなことを言っているけど、「らくらくパック代30万円です」と言われたらきっと「だったら自分でするー!」って言っちゃうんだろうなぁ。弱し。




で、いま、業者さんが入って、家中ドタドタ梱包してくれている。

いよいよ明日が引越だ。
明日搬出して、あさっての6月8日に東京の新居に搬入である。
今日は前日梱包日。
とてもじゃないけど(量が多くて)1日では梱包・搬出が出来ないということで、前日から来てくれているのである。いま横で業者さんたちが4人来て、ダンボールにどんどこ詰めていってくれている(あぁちょっと乱暴。もう少し丁寧にして!)。

業者さんにさわられたくないところや、大事な部分だけ、自分たちで梱包したが、それだけでもダンボール20箱くらいになった。あー、いったい最終的にどのくらいな数のダンボールになるのだろう。
本とCDがガンである。
これでもいろいろ捨てたのだが、本とCDだけは捨てられない。むーん。




それにしても関西、名残惜しいなぁ。

100%江戸っ子のボクがまるで知らない関西に来て15年。


箕面の社員寮に半年。
苦楽園口の神原町に3年。
苦楽園口の石刎町に5年。
夙川の久出ヶ谷町に3年。
芦屋の翠ヶ丘町に3年。



社員寮から出ることを決めて、とりあえず神戸方面に車を走らせたあの日。
夕暮れの六甲山の中腹に家の灯りがキラキラ光り、「なんて美しい土地だろう」と思わず高速道路を降り、最初に目についた不動産屋でいきなり物件を見せてもらい、なんとなく出会いを感じていきなりそこに住むことに決めてしまったボク。


苦楽園という土地がどういうところかも知らなかった(変な名前だなと思ったけど)。
つまりは「苦楽園〜夙川〜芦屋」周辺の佇まい・景色・雰囲気に一目惚れしたわけですね。


田中康夫も「これだけ東京好きなボクでも、真剣に夙川近辺を永住の地にしようか迷った時期がある」とどこかに書いていた。
そう、(彼のセンスは別にして)この近辺は日本でも一二を争う素晴らしい環境だと、真剣に思う。
東京出身者にとっては特にそうであろう。なんというか、東京センスに近い部分が多い街なのだ。実際東京からの転勤族も好んでここらへんに住まうのである。


緑が多く、六甲山が間近に見える。
朝景、昼景、夜景ともに、実に素晴らしい。
山までは車で5分。海までも車で5分。
洒落たブティックが散在し、フレンチレストランやイタリアンレストランは関西一の激戦区。
そしてパン屋とケーキ屋に至っては日本一の激戦区。
「なにが惜しいって、このパン屋さんの充実から別れないといけないのが惜しい」と優子も嘆いている。

生活レベルも高く、芦屋の山の手、六麓荘町あたりは日本一の高級住宅街(田園調布を越えると思う)。かといってお高くとまっているわけでもなく、住民はいたって気さく。関西ノリだ。
こじんまりまとまった街で、犯罪もほとんどなく、どこかのんびりしている。のんびりというか「おっとり」しているんだろうな。東京出張できっつい仕事をしてきた日など、ここらへんの「時間がゆっくり流れる感じ」に触れるだけでなんとなく癒されたものである。

阪神大震災で、古い家がほとんど壊れ、ずいぶん雰囲気は変わってしまったけれど、やっぱりいまでも大好きな街だ。苦楽園、夙川、芦屋・・・阪神間。




昨日、しばしのお別れだと思って、街を散歩した。
季節も天気も良かったせいもあるが、本当に美しい街だと感心しきり。

大阪も思い出深いし語りたいことがいっぱいあるけど、やっぱりずっと住んだこのあたりは特に別れがたいなぁ。






今晩は関西最後の夜。

苦楽園にある行きつけのバー「THE BARNS」で一杯飲む。




街との別れは、人生との別れによく似ている。
持っていけない思い出を心にしっかりしまい込むために、この街を心にしっかり生かしておくために、「THE BARNS」のオールドグランダッドの力が必要だ。








さよなら、ボクが愛した街。








ps1

とはいえ、苦楽園に優子の実家があるから、結局しょっちゅう帰ってくると思います。
そのうえ、実はいろいろ根回しして「関西クリエーティブ局兼務」という肩書きをゲット! つまりは出張で関西に来る口実が出来たので、2ヶ月に一回くらいは関西に来ると思います。



ps2

転勤残念メール(主に関西から)、転勤おめでとうメール(主に東京から)、いろいろありがとうございました。

ボク自身、東京偏重のマスコミ発信にはとにかくうんざりしていて、主宰しているレストランガイド「ジバラン」についても、「団長が関西にいるあたりがおもしろいよな」と思っていたのです。だから情報発信基地としては、東京以外の方が望ましい、と今でも思うのですが、転勤だからねぇ、仕方ないですねぇ。
でもこれからも(精神的に)東京偏重にならないように、東京と距離を保って行きたいとは思います。

あ、そうそう、家族はどうするのか、というメールもいろいろ。
ええ、もちろん一緒に移動します。
でも、「ゆうこのチーズ会」なんかは関西でもこれまでと同じように隔月で開きますのでお楽しみに。
そして、東京でもチーズ会を開くことになると思いますよ。東京の方々、ぜひ参加してみてください。チーズ初心者大歓迎。ボクもたまに参加してます。

・・・あ、どなたか東京で、格安で便利な会場、知りません?
   30人くらい入れて、出来れば簡単なキッチン付きで。
   (ゆうこがチーズ料理を作るので)


それと、朝日新聞の連載はどうするのか、というメールもいろいろ。
あれはね、関西のおいしい店の紹介である上に、事前の準備がかなり大変なので、やはり東京に行ったら続けられないでしょう。とはいえ、急に辞めると言っても編集都合上たいへんなので、10月の改編期までなんとか書き続けて、それでやめようと思っています。つまり9月いっぱい。





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