スチャラカ・スピーチ代筆 --02.05.19 






「あのさー、今度、披露宴でスピーチするんだけどさー、気の利いた話ないかなぁ」


突然、元上司から電話がかかってきた。


「スピーチですか・・・うーん、スピーチ例集みたいな本とかに書いてあるんじゃないでしょうか?」

「うん、でもさー、ああいうのって紋切り型のしか書いてないじゃん。そうじゃなくってさー、もっとこう気の利いた逸話みたいなので、何かないかなーと思って」



元上司とはいえ会社組織的にはしっかり上役である。
そのうえ大変世話になっている。無下に断れない。
Googleで結婚式のスピーチに使えそうな逸話を探し出し、さっそくメールしたら、また電話。


「うーん、こういうカッコいいのもなんかねー、いかにもイイ話探しましたーって感じで逆にカッコ悪いじゃん? なんかさー、もっとさー、みんなが幸せになれるようなさー・・・」


んなもん、ご自分で探しなはれ、である。


第一、結婚する当人たちをボクは知らないし、どのタイミングでスピーチするのかも知らない。スピーチを頼まれた本人が考えるのが筋というものだ。それが結婚を祝うということではないか。


・・・と、正論は言えても邪険にはできない上司である。これからも世話になる可能性は高い。
それでなくても忙しいのに、本屋に行ったりネットで長時間探したりして、いくつか使えそうなエピソードを探し出してまとめてファックスする。そしたらすぐ電話があり、


「うーん、悪くはないんだけどさー、なんか手垢にまみれているっていうかさー、ありがちな感じしない? もうちょっと笑えたりしてさー、ほら、笑いを取るって大事じゃん? 笑えないと座が白けるからさー」


「いやー、でも、そのー」(心の中、煮えている)


「あのさー、本出したばっかりだしさー、あの本面白かったしさー、さとなお、勢いに乗って、キミ、書いてくんない?





ぐは!
そう来たか・・・






確かに「うまひゃひゃさぬきうどん」を文庫化して出したのはつい先週のこと。
その上司にも差し上げた。

ついでだから言うと、同じフロアの近くに座っている人たちにも差し上げた。ここに転勤して2年近くになるが、まだ一言も話したことない人が6割はいる(!)。自己紹介も兼ねて、話のキッカケ作りも兼ねて、配って歩いた。

著者としてはかなり恥ずかしい行為ではあるのだ。
「お時間があったら、読んでくださいー。くっだらない本なんですがー」と媚びへつらった笑顔で渡して歩く。
ま、普通そこで何か会話が生まれる気がするじゃん。なのに「あ、どうも」と一言だけ言って、すぐモニターに顔を向ける若手すらいる・・・



ありがとうくらい言え!
(←あんたが頼まれもしないのに無理やり配っているんですってば)



著者だからって出版社からタダでもらえるなんてことはない。有料で自分の本を買って、恥を忍んでみんなに配っているのである。
感謝の言葉くらい言ってもいいじゃん。
読んで感想を言ってくれる人なんて1割にも満たない。
配って1週間近くになるが、机の上にポンッと置いたままの人さえいる。くぅ、かわいそうな「うまひゃひゃさぬきうどん」。題名が妙にはしゃいでいるだけに哀れが際立つ。せめて家に持って帰ってくれたって・・・。

ま、そりゃね、ボクもね、「へー、すごいですねー」と言われたい気持ちが心のどこかであったことは否定しません。いや、積極的に肯定しようじゃないか(開き直る)。だがな、そういう気持ちなんか百も承知の上でそれに応えてあげるのがサラリーマンのぬるい人間関係というものではないのか!(バンッ!←机を叩く音)

 




閑話休題。



ってわけで、ボクは披露宴のスピーチを代筆することになったのである。

ほらな、これがサラリーマンのぬるい人間関係というものなのだ(哀




ま、代筆といっても、前半はぬぐって(だって結婚する当人たちのこと知らないから、そこまでは書けない)、後半の「ちょっとイイ話」みたいな部分だけである。

ただ、「昔ヘミングウェイはこう言いました」とか「芭蕉は人生をこう詠みました」とかはカッコ良すぎてカッコ悪いと却下されている。

だから「ちょっと笑える身近な話」を創作することにした。

金曜の夜、3時間ほどかけて、あーでもないこーでもない、と推敲する。
意外と難しい。自分のじゃないだけに余計に難しいのだ。スピーチ原稿なんて語り手の人柄で大きく印象が変わるし。
また、新郎新婦のエピソードから紡ぎ出すのも手なのだが、それは「エピソードなんてさー、特にないと思うんだよねー」とこれまた却下されている(ないわけないと思うが)。


うーむ。


サラリーマンとはこんなことまでしないといけないのか、などと考え出すと気持ちがドツボに落ちていくので、これは将来的に誰かの上司としてスピーチするときの予行演習なんだ、と自分に言い聞かせ、前向きに試行錯誤する。そう、イヤなことでも何かは学べるはずだ。書け、書くのだジョー!

 


笑えること。
イイ話すぎないこと。
みんなが幸せな気分になること。


うーむ・・・・・・・



そして書き上げたのが、以下である。
身近すぎる気もするが、多少の笑いとヒネリを入れて短く構成したつもりである。





(新郎新婦を美辞麗句で紹介したあとに、付け足しっぽく)

ところで。
この前知り合いのお子さんが学校で受けたテストに、

  「魚は1匹2匹、
   鳥は1羽2羽と数えます。
   では馬は?」

という問題があったそうです。

もちろん答えは1
頭2頭、ですね。
でもその子は、「1着2着」と解答したらしいです(会場クスッと笑う…はず)
よっぽどお父さんが競馬好きだったのでしょうね。


さて、みなさん。
新婚夫婦の場合はどうでしょう?


魚は1匹2匹、 鳥は1羽2羽、馬は1頭2頭と数えます。

では、新婚夫婦は……?



新婚夫婦は……1姫2太郎、ですね!



○○君、△△子さん!
がんばって次から次へと、いいお子さんを産んでください。

本日は本当におめでとうございました。
(受けても受けなくてもサッと終わる方がいいです)




多少考えオチではあるが、とりあえずファクスで上司に送った。

プレゼン的に間を上手に使えばそれなりに受けると踏んだのだ。


折り返し電話がかかってくる。



「あのさー、原稿、笑えないこともないんだけどさー、こういうタイプのってスベったら最悪じゃん? というか、これ、スベる気がするんだよねー。スベった時の空気、キミ考えてる? その場で『お後がよろしいようで』って帰るわけにはいかないのよ? うーん・・・ま、ボク、自分で書くからいいや。じゃ、いろいろアリガトウ。ガチャッ」





 

 

 



最初から、ご自分で書きなはれ!(泣








日曜午後。

いまごろ彼は披露宴でスピーチをしているはずである。

そしてボクはサラリーマン生活の悲哀に溺れている。


でもま、スチャラカ社員みたいでなんとなく笑えるから、これはこれで、まいっか。

 

 

p.s.

「1姫2太郎という表現は新婚夫婦に子供を持てというプレッシャーを与えるのみならず、セクハラでもあり、子供がいない家庭への差別へもつながりかねない」というメールを(非常に温かい口調で)いただきました。

子供を持たない主義の結婚だってありますもんね。
産めない環境の人だっているし。
なんか「笑えそうな原稿」ということばかり考えてそこまで気が回らなかったなぁ。
というか、参加者一堂は笑えても、新婚夫婦にはまるで笑えないスピーチなんですね。

基本的に納得しましたので、ここで(原文を変えずに)追伸として付け加えさせていただきます。

ま、振り返ると確かにセクハラ親父のセリフですな。うはは。

ま、こういう禁句に近いことを書いてしまうあたり、すでに将来的な「上司スピーチ」の才能はないということで。 未来の部下さんたち(そんなものいるかどうかしらんが)、ボクにスピーチをさせないように。

マジでスピーチが大嫌いなさとなおより。





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