がんばれ!おばぁちゃん!  --97.8.4




マンハッタンの44丁目の「Birdland」で素晴らしいおばぁちゃんを見た。

「Birdland」は言わずと知れたチャーリー・パーカーの伝説的なライブハウスである。
リニューアルして、また、この頃人気が出ている店だ。

店内はきれいで、何よりも特筆すべきはテーブルの配置がゆったりしていること。
スイート・ベイジルにしてもブルーノートにしてもウエイターが通れないほど椅子を詰め込んでいるが、ここはすごくゆったりしている。身体が楽だ。


今日は月曜日の夜。
「Birdland」のスケジュール表にはこう書いてある。

The Legendary Toshiko Akiyoshi Jazz Orchestra Featuring Lew Tabackin

毎週月曜日にここで「Toshiko Akiyoshi Jazz Orchestra」がライブをするのだ。

Toshiko Akiyoshi、つまり穐吉敏子。
そう、世界のアキヨシが久しぶりに定期ライブを始めたのだ。

1929年生まれの彼女は今年68歳。
もう41年、アメリカのジャズ界の第一線で演奏し続けている。
何回となくグラミー賞候補になりながら選ばれず(人種差別も確かにあったと思う)、「ダウンビート」の読者人気投票、批評家投票でも1位を数多くとって知名度はバツグンなのにレコードは売りに繋がらない。
食えない生活。
なんと一時はコンピュータープログラマーへの転職まで考えて学校に通ったりもしたとか…
出産、離婚、カクテルラウンジでBGMを弾くようなことまでして生きてきた。

運が向いてきたのは今の旦那ルー・タバキンと出会ってから。
オーケストラを組んでアレンジを数多く手がけ、「ミナマタ」などのメッセージ性の強い音楽を経て、そして辿り着いたオーケストラ……

アメリカ唯一の文化(と言ってもいいと思う)「JAZZ」にこうして半生をかけてかかわり続けてきた穐吉敏子。
若くして日本を飛び出して以来、東洋人に対する根強い偏見、蔑視、女性差別と闘いながらジャズ界の一線で活動してきたのである。

この前彼女の半生記「ジャズと生きる」(岩波新書)を読了したばかりの僕は、その半生の重みを背負った彼女のライブを聴けると思うだけで、しかもこのマンハッタンの「Birdland」で聴けると思うだけで、なんとなく涙ぐんでしまいそうになるのである。

がんばれ!アキヨシ!




時間になった。

彼女の旦那ルー・タバキンをはじめ15人ほどの白人を従えて彼女が登場する。

背中がちょっと曲がってきている。
68歳なのだ。

曲がってきてはいるが、背筋はピシっと伸びている。
まだ闘っているのがよくわかる。

その小さい小さい日本のおばぁちゃんは、
指一本で彼らを指揮し、勇壮にピアノを弾きはじめた。

あきれるほどに堂々としている。

なんだか誇らしい気持ちになる。



僕は彼女のレコードはあまり聴いていない。
彼女のアレンジは難解なものも多いから、わりと距離を置いてきたのだ。
「ミナマタ」みたいなメッセージ性の強いものも嫌いだった。

だけどいま目指しているものは、わりとわかりやすいジャズだと思う。
なんというかツボをはずさないように考えられたアレンジ。
とてもファニーでスタイリッシュでメリハリのきいたジャズだった。
テナーのルー・タバキンは最後の方に本領発揮。圧倒的な演奏だった。



穐吉敏子はオリジナルだった。
背筋の伸ばしてしっかりオリジナリティを主張していた。

オリジナリティは国境をこえる。

英語が少々しゃべれても国際人とは言えない。
本当の国際人とは「オリジナリティ」を持っている人のことだ。
もっと平たく言うと「自分を持っている人こそ、国際人」なのだ。
そういう意味で、穐吉敏子は真の国際人だ。



今宵、かのチャーリー・パーカーの「Birdland」に
東洋人がアレンジし演奏し指揮するオリジナルなジャズが流れた。
そして僕は感動冷めやらずホテルでこれを書いている。

僕はこのおばぁちゃんをとても誇りに思うのである。
酒でも飲まなけりゃ、ちょっと眠れそうにない。





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